【第16話】 絶望を運ぶ魔獣……① 最悪の系譜と救助隊の思惑
5 魔猿……ブログ用①
◆ 残忍、狡猾、忘れない恨み
もうどうにもならない決定に、ミカドは悶々としながら自問自答を繰り返していた。
周囲はもう重装備の襲われた仲間の救助と、問題の魔獣についての話一色となっている。
「あの男、ゴーズっていう名前らしい」
オマールが知り合いから酒場に助けを求めてきた重装備の男の名前を調べてきた。
ゴーズの登場により、酒場の喧騒は、その性質を一気に変化させている。
「猿の魔獣って……最悪って聞くけど……」
ゴーズ達を襲ったのは、誰に聞いても最悪と言われる猿の系統らしく、そこらから聞こえる過去の話は、どれを聞いても眉を顰めるようなものばかりだった。
そんな話題が嫌でも耳に入り、繊細になっているカイリは凄く嫌そうに魔猿を拒絶している。
猿の分類は、人型に分類する魔物派と、獣型に分類する魔獣で意見が割れている。
猿系統は特色をはっきりと分けるのが難しく、一生意見が分かれるらしい。
そんな猿の系統が最悪と言われる所以は、人に敵意を抱いているという点だ。
性格は残忍にして狡猾。
慣れていないと1匹でも手を焼くと言われ、それが基本4匹〜5匹のグループで行動している。
ミカドたちはこの猿を魔獣と分類する事にした。
その方が何となく罪悪感が少ないという理由からだった。
猿の魔獣で『魔猿』間違いなく厄介な魔獣だろう。
◆ 執念深い『魔猿』の包囲網
「でもさ、俺たちの中で魔猿だっけ? 誰が動きについていけると思う?」
猿の魔獣は動きが素早く、腕力が強く、握力が凶悪で運動能力も高い。
ミカドやホセ、グリップ、カイリ、リオニ、オマールやエマも苦戦するだろう。
「そりゃあ、レベッカだろ……それからアレックスにレオン……」
動きに付いていくだけならレベッカが最適かもしれない。
けれど、魔猿は高い身体能力に加えて小賢しい知能も持つ。
気分屋のレベッカが、魔猿と渡り合えるかと聞かれれば、疑問を拭い去ることは出来ないだろう。
更に厄介なのが、恨みを忘れないという性格だ。
「俺は!?」
ホセのように後に引かない性格であれば、試して駄目なら逃げる……という作戦も有効だろう。
問題なのは1度手を出すと、魔猿は手を出してきた相手を忘れないということだ。
狙われるからキナーク砦の外に出られなくなったという奴が、既に何人もいるらしい。
「ホセはどうかなぁ……俺はここでホセを出すのは早い気がするけど」
「そっか、魔猿が俺にビビって出てこないかもしれねえしな!!」
「……うん、そうだね。……ホセは時々恐ろしいもんね…………」
この魔獣は、遭遇した場合は必ず全滅させる必要がある。
なにせ恨みを忘れないので執拗に人を狙う様になるからだ。
……聞けば聞くほど俺たち程度が手に負える魔獣じゃないだろ。
ミカドは今からでも辞退するべきだという考えがどんどん大きくなっている。
◆ 総勢50人の救助隊と、重すぎる期待
「厄介そうだけど、俺達以上のベテランが50人だろ? それなら大丈夫な気がする」
救出は相手が魔猿という事もあり、総勢50人あまりが参加する事になった。
……救助に向かう人数にしてはかなり多いけど。
50人という数を聞いても、ミカドの不安は1ミリも和らがなかった。
……だから何だ? そんな数で……。
ミカドの頭にゴーズの凹んだ重装備が思い出される。
魔猿はあの重装備をボコボコに出来る攻撃を繰り出してくるのだ。
重装備を凹ませる攻撃と救助に向かうパーティが50人……。
「こんだけ人数いたら楽勝だろ! はははっ!!」
……それだけヤバイって証拠だろ? 仲間のためだとしても、助けに行く仲間の心配はしないのか?? どうしてだ? 何でしないんだ?
楽観的なレベッカを論破してやりたかったが、今更そんな事をしても、解決しない上に空気だけ悪くなるのが目に見えている。
それでも、この場にいる大半の人間から、魔猿に対してリスクを感じている雰囲気が見られないのがミカドの不安をこれでもかと煽ってくる。
「リオニ、俺たちの配置とか……それは他の配置を見ないとまだ……俺たちは新米って見られてるから……大丈夫だって!!」
救助に参加する仲間が話し合っている……ミカド達の全員が救助に行けるわけではなく、行きたくても行けない、残念ながら選ばれなかったと悔しがる仲間が出ていた。
……何で俺は助けに行くメンバーに選ばれてるんだよ!! 俺だってオドニスを助けたいよ!? 助けたいけど、俺には無理だろ!?
ミカドの中で、自分というミイラ取りがミイラになる未来しか見えなかった。
12人いるメンバーの中から『救助に同行して良いのは5人だけ』、それが、他のメンバーから突き付けられた条件だった。
◆ 選ばれた5人と、ストッパーの役目
全員参加にならなかった理由は、やはり経験が不足……新米だと判断している奴が多いからだ。
フォローする側から面倒見きれなくなる可能性があると言われた。
他のグループからすれば、新米がいたらリスクが増えるだけだと思われているんだろう。
……当然だ……俺だってそう思ってる。
そういう訳で誰が行くか決める前、ミカド達は仲間内で少し揉めごとになった。
そうやって、ゴタゴタしながら決めたメンバーはこうだ。
絶対に助けに行くと言って譲らなかった頑固者のアレックス。
安全を考えれば外せない斥候のソーマ。
現時点で唯一、魔猿と渡り合えそうな戦闘力の高いレベッカ。
状況判断と作戦参謀、それから守りの要になる回復役のリオニ。
最後に、お目付け役としてミカドが行くことになった。
……くそがっ!! 何でだよ!?
ミカドが選ばれた理由は1つだ。
アレックスへの反抗心を持っていて別の意見を出せる。
救助に向かう仲間を、ミカドなら生きて戻せる……という期待が込められていた……。
アレックスが仲間のために暴走すれば、ミカド以外のメンバーは反対の意見すら思い浮かばないかもしれない。
それくらい、アレックスと違う意見を言うのは他のメンバーには難しい事だった。
……俺がいたって意味無いって!!
居残りの仲間が期待しているのは、オドニスを助け、助けに行った仲間も全員無事に帰ってくることだ。
オドニスの救出はミカド以外の4人が担当……全員無事に戻るのはミカドに期待という訳だ。
……いやいや無理だろ! 能力に対して期待が重すぎるだろ!!
ミカドの考えは今も全く変わっていない。
全員無事に戻れる確率が未知数なら、熟練者が救助に出るのだから待機するべきだ。
ミカドはオドニスの安否を気にしながらも、仲間の期待には応えられないだろうと思った。
……まただ………………。
胸がざわつく不安は今も続いていて、しかも少しずつ大きくなっている。
◆ 時間切れの号令、不穏の口へ
「それじゃあ出発する!!」
救助隊で中心となるパーティのリーダーが、良く通る大きな声で号令をかけた。
ミカドが1人、頭の中でああでもない、こうでもないと悩んでいる間に、悩む事すら時間切れになってしまったのだ。
……嘘だろ、もう出発かよ。
ミカドの嘆きは誰の耳にも届かない、大きな急造パーティのリーダーに合わせて、周りの人間が一斉に動き始めた。
その迫力はなかなかのもので、未だ否定的なミカドですら少し期待してしまう。
道案内はゴーズ。
これから向かうのは狂暴な魔獣の待つ洞窟の奥だ……不穏の口に飛び込むようで、ミカドはゴクリと喉を鳴らした。
……洞窟か……気分屋のレベッカは役に立つのか……?
何も起こらないことを願いつつ、ミカドは遂に救助隊の末端として移動を開始した。

ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません