【第34話】 繋がる想い
7.5 繋がる想い
◆ 境界線の消失と、脳内で紡がれた愛称「シア」
もう私の境界線がぼやけることは無くなった……。
その原因……繋がりを通して感じる相手……それはきっと「人」なのだと思う。
男の子なのか女の子なのか、今の私には分からないけれど、私はその存在に名前を付けることに決めた。
性別がどちらであっても愛称として呼べるように……短く、柔らかな響きの名前。
決めた名前は「シア」。
私の本当の名前(シャロン)を呼んでくれる人はもういないけれど、この名前ならシアが誰であっても、私のたった一人の大切な存在としての呼び名になるはずだ。
繋がりから伝わってくるシアは、とても奥手な性格みたい。
一番多く流れ込んでくるのは、胸が締め付けられるような「小さな不安」。
その次に多いのは、言葉にならないくらいの「小さな不満」。
その差は本当にわずかなものだけれど、今の私の関心は、世界中の何よりもシアだけに注がれている。
だから、自分でも驚くほど、シアの繊細な心の機微が手に取るように分かっている気がする。
シアはいつも、あの息苦しい「人の中」で、小さなストレスを抱えて生きている。
時折、嬉しさや喜びが混じることもあるけれど、私にはその感情が生まれる環境に心当たりがある。
自分以外の人と共に生きる場所では、自分の価値は他人の勝手な評価で決められてしまう。
私も……かつて「シャロン」だった頃、私の本意なんて置き去りにされたまま、周囲に『こうだ』と決め付けられてしまったから。
自分の本意と、他人が決めた定義には、必ず残酷なズレが生じる。
自分で思う自分ですら、容易に揺らいでしまうのだから……。
……感情が高ぶって涙が止まらない夜の思考と、あっさりと全てを諦めてしまう朝の思考が、あんなにも違うように。
◆ 醜い私のエゴと、反転する「赤く尖る」衝動
今の環境で心を削っているシアに対し、私は2つの、自分でも整理がつかない気持ちを抱いている。
1つは、そのストレスを今すぐ取り除いて、シアを笑顔にしてあげたいという気持ち。
そしてもう1つは、シアが傷ついているからこそ、私という存在の価値がシアの中で高まっていく……そんな現状を「好ましい」と思ってしまう、醜い私のエゴだ。
私は今、シアの感情をダイレクトに受けている。
そして先日、初めて分かった。
シアにも同じように、私のこの感情が伝わっているのだということが……。
私たちは、確かにこの暗闇の中で繋がり合っていた。それが分かった時、私は震えるほど嬉しかった。
私が喜びを感じる時、シアの心も同じように喜びで満たされる。
つまり、シアを一番幸せにしているのは、この私なのだ。
……誰にも、シアを渡したくない。
他の誰かがシアの隣で笑っている状況を想像しただけで、私の意識はあの日の絶望を思い出したように「赤く尖り」、凶暴な衝動が突き抜けていく。
『……………』
その時、シアからの反応があった……。
たったそれだけで、私の荒れ狂った心は強烈な歓喜によって塗り潰される。
◆ 変わり果てた今の姿と、温もりを求める足音
けれど、ある時……ふと考えてしまう。
今の反応は、荒れ狂う私を哀れんで、気を使ってくれただけなのだろうか?
シアは一体どんな人で、周りにはどんな人たちがいるのだろう。
私は……私はできるなら、もっとシアの傍に行きたい。
そこまで考えて、急激に気持ちが暗く沈んでいく。
私の……今の姿では、シアに会うことなんて絶対にできない。
魔物(グリム)へと変わり果て、鱗のような皮膚に覆われた今の私の姿を見れば、シアはきっと……あの日私を罵った弟のように私を嫌い、拒絶するだろう。
想像するだけで、切なさに胸が引き裂かれそうになって、息ができなくなる。
『………!』
再び、シアからの反応。
私の寂しさを、あのおじいちゃんのように気遣ってくれているのだろうか。
その優しさが嬉しくて、また温かい涙が溢れた。
たとえ姿を見せられなくても、せめて傍にいたい。
あの日…家から追い出された私だけど、姿を隠してさえいれば家族と繋がっていられたように、姿さえ見せなければ、私はシアの傍にいられるのだから。
私はシアの温もりを求め、今日もまた、重い体を引きずって、少しずつシアを感じる場所へと動き出していく。

ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません