【第11話】 試行錯誤……⑥ 自分だけの『カード』と、青白い電流
3 試行錯誤……⑥
◆自分だけの『カード』
「……そろそろみんなも魔法を覚える時が来たんじゃないかと思う」
オマールのその言葉を聞いて、ミカドはもちろん……仲間たちも、新たな可能性への期待で心臓の鼓動は早鐘を鳴らし、胸のソワソワとワクワクが抑えられない。
こういうのを居ても立っても居られないと言うのだろう……。
とにかく、みんな新しく始まるであろう物語に胸を膨らませていた。
今まで使えなかった力が使えるようになる。
それは人生に何度かある大イベント……間違いなくその一つなのだ。
「効率を考えれば、誰が何の魔法を覚えるのか……それをパーティで相談して決めるのが良いんだけど……俺とエマは、君らが覚える魔法は自分で選んで欲しいと思ってる」
「何で? 全ッ然話し合わないの?」
思ったことがそのまま口から出ました……という顔をしたホセは首を傾げている。
「それをしちゃうと、必ず不公平が発生しちゃうのよ。そこから不平不満が溜まってパーティ崩壊……なんて顛末は嫌でしょう? だから『覚える魔法』ではなく『覚えたい魔法』を選ぶのがいいの」
エマの話が現実になる想像がミカドの頭に流れ込む……死の間際、自分で選んだ魔法じゃない事を後悔し、原因となった他人を恨みながら死ぬ光景が……それはもう……ありありと浮かんだ……。
……これは……あり得る……自分が選んだ魔法じゃないと愛着が湧かない気もするしな。
死なないにしても、もしも他人が選んだ不本意な魔法を覚えたとして、それが実践で全く役に立たなかった場合、確実に揉める事になるだろう。
「それにさ……俺達はいつ死ぬか分からないんだから。個人で後悔しない選択をしておかないと後悔なんて言葉じゃ足りないくらい後悔すると思う……」
……こいつまたかよ!?
悲劇の主人公のような真剣な表情でこれ見よがしに語るオマールだが、つい先日、そいつが神妙に言っていた『死んだ仲間の原因』が、酒場の片隅で尻から酒を煽って自滅したという……前代未聞の大馬鹿だと知ったばかり。
ミカドの胸中には呆れと怒りしか湧いてこない。
……どの口でそんな高尚な台詞を吐いているんだ。後悔の格が低すぎるだろ!…………ていうか……俺も流されてるな……。
『俺だと皆の気持ちを無視できないしね。オマールやエマの意見にも流されやすい……』
いつかの夜に話したアレックスとの会話が思い出された。
……ほらみろ、俺もそんな高尚な人間じゃないんだよ。
結局、魔法は各自が覚えたいものを覚える……そういう事になった。
各自が選んだ魔法……その決断には、それぞれの剥き出しの性格と、戦いへのスタンスが如実に表れていた。
気分屋で、自分中心に物事を考えるレベッカは身体強化の魔法を選んだ。
攻めるのも逃げるのも、自分一人で出来る彼女にはお似合いの魔法だろう。
アレックスとレオンもレベッカと同じく身体強化の魔法を身に着けた。
何だかんだ言っても力自慢が多いとパーティの地力が強くなるし、アレックスは仲間最優先の考えで、文字通り自分が仲間の盾になるつもりらしい。
レオンも似たようなものだと思う。
他は追々紹介するとして、俺たちは魔法を覚えた事により、確実に次のステージを意識する事になった……。
◆覚醒の『パリッ』と剥き出しの力
◇
「ミカド! そっちに行ったぞ!」
……うわぁ……こっちに来るのかよ。
グリップ達に任せていた魔獣がこちらに来ると聞き、ミカドは意識から外していた方向への警戒も追加した。
仲間から注意の掛け声が無ければ確実に直撃を受けていたであろう、凶悪な質量を伴った魔獣の猛進にミカドは身構える。
構えた右手のナイフの刀身が一瞬だけ青白く爆ぜるように明滅すると同時に、鼓膜を劈く……『パリッ』という鋭い放電音が鳴り響いた。
相手はいつぞやの、凄まじい突進力を持つあの魔イノシシだ。
……大丈夫だ、落ち着け……落ち着けぇ……。
自分にそう強く言い聞かせ、ミカドは魔イノシシの動きを一つとして見逃すまいと目を見開いて凝視した。
地響きを立てて巨躯が迫り、突進の風圧が顔面を打つほど肉薄する瞬間……。
……ここだ!!
このままでは衝突……という瞬間に、ミカドは吸い付くような身のこなしで魔イノシシの猛烈な突進を皮一枚で必死にいなした。
すれ違いざま、帯電させたナイフを魔イノシシの太い前足の肉へと、全体重を乗せてなんとか突き刺す。
……お……おわぁ!?!?!!!?
衝撃の瞬間、叫び声を上げる余裕すらミカドにはなかった。
魔イノシシの巨大な質量に対して、ナイフの柄を直ぐに放さなかったせいで、腕が引き千切られるかと思うほどの凄まじい力で身体ごと引き摺られる。
次の瞬間には、慣性に抗えず無様に地面を転がるようにして吹っ飛ばされていた。
だが、ミカドの刺したナイフは確実にその役割を果たしていた。
刃から伝う青白い電流が魔イノシシの前足周辺の筋肉へ一瞬にして到達し、電気刺激による反射反応を強制的に引き起こさせた。
「グエッ!」
突如として足の自由を完全に失い、魔イノシシは自慢の推進力が仇となってつんのめるようにして、頭から地面に激突、それでも止まらず凄まじい勢いで地面を滑っていった。
その制動不能となった無防備な巨頭めがけて、すかさずレベッカが大きく……文字通り、非常に大きく、そして高く跳躍した。
身体を器用に折りたたんだかと思えば次の瞬間……容赦のない大振りが、その身の丈ほどもある重厚な大剣を魔イノシシの頭部へと真っ直ぐに振り下ろされる。
『グヂャ……』
肉体が発してはならない最悪の嫌な音を立てて、魔イノシシの強固な頭骨はベジャっと無残に潰された。
「うわぁ……引くわぁ……」
あまりにも無残に潰れた魔イノシシの頭と、周囲の地面に生々しく散乱した脳漿は、見れば心が竦む最悪の光景だった……。
それ等と、どす黒い返り血を頭からベッタリと浴びて平然としているレベッカの姿を交互に見ながら、ホセが本気でドン引きしている。
ミカドも言葉を失っていたが、他はどうなのだろうかと周りを見ると、案外平気そうな仲間もチラホラいたので平気なふりをした。
「あぁ? お前も潰してやろうか?」
返り血を滴らせたレベッカが、酷く楽しそうな邪悪な笑みを浮かべてホセに一歩ずつ詰め寄っていく。
「いやいや! 冗談だよ! 冗談!! 分かるだろそれくらい!」
顔を青くして必死に手を振るホセを見て、ミカドは心の中で静かに同情した。
自分も同じ様にレベッカに対して引いたけど、それを声に出すのは間違いなく馬鹿のする事だろう……。
「分かるだろ……って……ホセがそれを言うんだ」
……まあ、レベッカのあれもほとんど冗談だろうし。
呆れたグリップのツッコミは、空気の読めないホセの放った「分かるだろそれくらい」という言葉の厚かましさに向けられたものだ。
グリップの冷ややかな声が聞こえていたら、恐らくホセ以外の仲間全員がその場で深く頷くことだろう……。
とはいえ、あのホセが恐怖のあまり引くほど、新しい力を手に入れたレベッカの破壊力は激増している。
正直、洒落にならないくらい強力になったと思う。
レベッカの覚えた身体強化魔法は、もともと彼女に付いている闇の女神の加護も相まって、もはや初級の枠組みを逸脱した凶悪なものへと変貌を遂げていた。
ミカドのナイフが『パリッ』と音を鳴らしながら光ったのも、紛れもない魔法の力だ。
他のみんなもそれぞれ、試行錯誤の末に新たな魔法を覚えている。
それがたとえ初級であっても、正しく使えれば実戦において抜群に役に立ち、今や新兵たちは誰もが段違いの成果を出せるようになっていた。
かつての初狩りでオマールの指揮が上手く行かなかったのは、この「各自の決定的な一手」が欠けていたことが原因かも知れないなと、ミカドは1人考えている。
確かな実力と手応え、そして圧倒的な暴力の快感が、パーティの空気を一気に1つ上の自信へと押し上げていく……。
◆未来への先行投資と安全プラン
ある日、オマールがこんな事を言い始めた。
「魔法を使いこなせるようになったらさ、洞窟探索にも出てみよう」
……洞窟か。
「別に嫌とかじゃないけど、洞窟と狩りってさ、どっちが危ねぇの?」
ホセが、仲間みんなが気になっているであろう事を質問した。
「そうだな……危険なのは狩りの方なんだけど、洞窟は開放感がなくて、ちょっとした事で気分が沈みやすいんだ。でも、うちのパーティは明るいから……」
そう言ったオマールは、ホセとアレックスをチラリと見ていた。
キナーク砦に着くまでの洞窟を思い出すとオマールの言いたい事も納得できた。
「先に進んで新しい拠点を作らない限り、俺達はずっと狩りをしないといけないし、ずっと危険が付き纏う……俺は出来るなら誰も欠けることなく生活できる環境を作りたいんだけど……」
オマールが意見を求めるようにエマを見た。
「そうね……危険な事をしなくても暮らせる環境は大事だと思うわ。だって、私たち、そのうちおばさんとかおじさんになるんだもの。今と同じ動きはできなくなるしね」
最終目的は精霊石を奪い、世界に還すことだが、ミカド達もそれが出来るかと言われれば不可能だと思っている。
今の段階で求められる現実的な事は、精霊石奪取のための足場作りだ。
新しく作った足場、すなわち拠点は精霊石奪取までの重要な拠点となる。
維持するためには多くの人手が必要となり、そこには多くの仕事も発生する。
拠点維持の仕事は利権であり、狩りよりも安全で、贅沢な暮らしが期待できる。
洞窟探索は、新拠点の利権を得るための、リスクを取った先行投資というわけだ……。
そんな思考の海にダイブしていると、元気な声がミカドを現実に引き戻した。
「私は贅沢に暮らしたい!」
声の主は気分屋のレベッカだった。
「当然だな!」
続いてホセも同意している。
エニアが不安そうな顔でアレックスを見ていると、横からレオンが口を開いた。
「俺達のグループは人数もそこそこ多いし、新しく魔法も覚えた。この先ずっと狩りをして生きていくのも限界はあると思う…。洞窟の探索も経験しておくのは悪くないと思う」
この時、レオンは狩りをして生きていく限界を考えていたのかもしれない……。
それは死を意識するものだ。
レオンの先を見た意見で、みんなの意見は完全に洞窟探索へ流れた。
やはりこの男の保護者感は半端ない。
「じゃあ今後は、洞窟の探索も同時に進めていこう。もちろんみんなの安全が最優先でね!」
アレックスが話を纏め、今後の方針は決定的となった。
今後の方針として、まずは魔法に慣れるため、今まで通り狩りを続ける。
魔法を使い慣れたら洞窟の探索に行ってみる。
洞窟の探索は、慣れるまで遠くには行かない。
ざっくりとではあるが、こんな感じで決まった。
……このくらい安全重視なら、少しは安心してもいいか?
洞窟探索への指針が決まってから、しばらく狩りで魔法の使い方や連携などの練習を繰り返し繰り返し……これでもかと念入りに行った。
このくどさはアレックスの指針であり、心配性な人物がリーダーをやることのメリットであり、デメリットでもあるだろう。
そんなアレックスも、遂に納得したのか……覚悟を決めた顔で次のステージに進むことを宣言した。
「十分練習は行ったし、これくらい戦えるなら洞窟の探索に行っても良いんじゃないかと思うんだけど……。みんなはどう?」
アレックスがそう言うと、皆も頃合いだと頷いた。
くどい程の練習だったと思う……けれど、それでも足りないという事を……今後……嫌というほど思い知らされる事となるのだ……。

ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません