【第2話】 旅だち……②
1 旅立ち……②
自分を含めた総勢15人は、明日、出発の日を迎える事になっていた。
ここでもう一度、簡単に人物紹介をしておこう。
根暗で口の悪い男、ミカド。
仲間からの信頼が厚く、なぜかミカドにウザがられている男、アレックス。
これと言って特徴の見当たらない男、ソーマ。
不安を内に抱え込もうとした女、リオニ。
不良の男、ダビ。
空気の読めない男、ホセ。
老け顔だけど良い奴、男のレオン……名前はかっこいいと思う。
とにかくビビリの男、オドニス。
根暗で何を考えているのか分からない女、エニア。
気分屋の女、レベッカ。
男嫌いの女、ピピ。
いつもピピと一緒にいる女、セルナ。
男勝りで豪快な、ティナ。
ソーマに負けず劣らず影の薄い男、グリップ。
お調子者の女、カイリ。
ミカドを含む総勢15人は、不安を抱えながら上の世界に向かう事になっている。
……いよいよ出発か。
不安でも上の世界に行く理由。
それは、今年が孤児院追い出しの年齢だからだ。
孤児院は身寄りの無い子供を育てる機関だが、いつまでも在籍は出来ない。
16歳になれば大人と見なされ、後から入る小さい子供達に居場所を譲らなくてはならない。
それは仕方のない事で、今回追い出される15人の全員が納得している。
孤児院を出れば、そこから必然的に自分で身を立てなければならない。
けれど、大人に見なされたとはいえ16歳なんてまだまだ子供。
子供だけでの自立はかなり困難だ。
先に追い出された先輩を頼ろうにも、誰も彼もが自分や自分の仲間たちの事で手一杯なのが普通である。
それでも、一定数……孤児院を出る時にお誘いの声は掛かる。
しかし、その先でいい噂は聞かない。
誘いに乗った子供は生きていけるが、搾取されるというのが常識だ。
だから今回のように、たとえ不安が大きくても新天地を目指す奴が割と多い。
新天地……そう。
この目の前に広がる巨大な大樹……世界樹と呼ばれることもある大樹のてっぺん、それよりも更に先の世界に新天地は存在する。
端的に言ってしまえば、この大樹を登ると別の世界に繋がっているのだ。
大樹のてっぺんは雲に覆われていて、下から目で確認する事はできない。
この馬鹿でかい大樹の上に辿り着くには、見るだけで辟易してしまうような階段を、延々と上らなければならない……それも数日掛けてだ。
まる一日かけて階段を上り、休んでまた一日中階段を上る……考えただけで気が遠くなりそうだ。
……正直言ってウンザリする。
大樹のてっぺんに掛かる雲……この雲が晴れた事は無いらしい。
……大樹に掛かる雲の上に別の世界があるとか、まるで雲を掴む様な話だな……。
……くっそつまらないダジャレが頭に浮かび、ミカドは恥ずかしくなって誰かに気付かれていないかこっそりと確認した。
とにかく、現実逃避したくなるほどの苦行が待っているという事だ。
「ここから5日間で上まであがる! 余裕はあるから喜べ!!」
……やっぱりウザいな。
引率のガルシアは、身振り手振りを加えながら、相変わらず大袈裟に説明している。
ガルシアとは上に上がるまでの間、そしてその先の目的地まで行動を共にする事になっている。
ミカドはうんざりしながら、天を衝く大樹を見上げた。
この目の前の大樹はあまりにも大きい。
その大きさ故か、それとも別の理由なのか分からないが、言葉では言い表せない……神がかった雰囲気で見る者を圧倒させる。
……これを上るのか……いや、登るっていうか苦行だろ、これは。
登り始めて数分もすればどうせ後悔するだろう……仲間もそんな想像をしている顔に見えた。
何度見直してみても、圧倒される。
これを登る……? 本当に上るのか?
まだ一段も登っていないのに、ミカドは既に気持ちが疲れていた。
そして、いよいよその第一歩を踏み出す時が来た。
階段は大樹の中にある。
こんなに巨大な木にもかかわらず、何故か中はほとんどがガランとした空洞なのだ。
……おいおい嘘だろ、本当にこれを見上げながら登るのかよ。
一歩、また一歩と階段に足をかけたミカドは思わず目眩を覚えた。
外から見る以上に、内部を貫く螺旋階段の「終わり」は気が遠くなるほど遠い。
一瞥しただけで、これから数日間付き合うことになる拷問の規模が理解できてしまった。
そんな摩訶不思議な空洞に足場を作り、階段を作り、休憩出来るスペースを作り、時々存在する大樹の足場に宿屋を作り、倉庫を作り、料理屋を作り……。
これを先人たちが作ったのかと思うと、信じられないバイタリティの高さを想像し……ミカドはまた気持ち悪くなった。
……俺には絶対無理。そもそも何で足場とか作ろうって思うんだよ!?
繰り返すが、大樹の中は空洞である。
足場はあるが地面は無い。
ただポッカリと底なしの穴がどこまでも深く空いている。
時々落ちる奴もいるらしいが、そうなれば戻って来るのは不可能だ。
「落ちるなよーっ!!」
ガルシアからも注意するよう激が飛ぶ。
……こんなの、言われなくても注意するだろ。
登り始めて二日目、三日目。
最初はガルシアのうるささに文句を言う余裕のあった仲間たちも、徐々に言葉を失っていった。
右を見ても、左を見ても、代わり映えのしない大樹の茶色い内壁と、足元に広がる底なしの暗闇。
それだけだ。
まる一日かけて階段を上り、休んでまた一日中階段を上る……ただ足を前に出すだけの機械になったような錯覚に囚われる。
この常識外れの大樹の中……上までこれが続いているのだ。
階段を登るだけでも気が遠くなるのに、先人たちはこの空間の上まで階段を掛けたのだ。
はっきり言って異常である。
……俺達は先人達の努力を大人しく使わせてもらおう。
階段をひたすら登り、ミカドも仲間も既にヘトヘトになっている。
毎日無言が続き、気持ちが滅入りそうな中、ガルシアだけが陽気で元気だった。
そうして現実逃避を繰り返しながら、何日目かも分からなくなった頃。
大樹の上、てっぺんと言われている場所がようやく見えてきた。
この大樹のてっぺんは、なぜか土の中に繋がっていて、そこは大洞窟と呼ばれている。
大樹の上に空が広がらない原理は不明だが、事実として洞窟に通じているのだから受け入れるしかないだろう。
ちなみに、この大洞窟の規模や全容はまだまだ解明されていない。
「はぁ……はぁ、あぁ……あ……着いた……の??」
ミカドがそんな事を考えながら現実から逃げていると、仲間の声で意識が引き戻された。
レベッカは疲れてうなだれている。
普段は気分屋で、怒ったり笑ったり忙しい奴だが、今は機嫌よりも疲労が勝っているようだ。
……多分こいつも……俺の事は別に好きじゃないだろうな。
もちろん恋愛的な意味では無いし、恋愛的な意味でも困る。
もしも好かれていたら、その後に嫌われた時のダメージがデカすぎるからだ。
……俺のメンタルじゃ3日はおろか、3年は確実に立ち直れないだろう。
「ここが上の世界かぁ……」
「思ったよりも普通だね」
「普通っていうか洞窟だし……」
後に続いて到着した仲間が思い思いに感想を口にしている。
……普通か……? ……洞窟が普通?? え? 上に昇って来て洞窟だぞ?
大樹の上部はこの大洞窟に繋がり、この大洞窟から地上に出ると、そこは俺達の世界とは別の世界が広がっている……らしい。
自分達の世界と上の世界を繋ぐ大樹……それが世界樹と呼ばれる所以だった。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません