【第1話】 旅だち……①

アドセンス横長

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1 旅立ち……①

「いいかッ! 来週にはここを出る! 後で必要だと思っても手遅れだと思え! 後悔しないよう、しっかりと準備しておくように!!」

鼓膜を直接震わせるような、あまりにも巨大な怒鳴り声。

いつも少なくない人が、この声量に圧倒され身を竦ませてしまうのだが、別に怒っているわけではない。

名はガルシアといい、実はかなり面倒見の良い男である。

その面倒見の良さから、今は引率役を押し付けられていた。

大きいのは声だけではない。

身振り手振りもいちいち大きく、そして鬱陶しい。

ガルシアの印象について、一般人を対象にした統計を取れば、個人的な関係は絶対に持ちたくないという結果がトップになるだろう。

そんなガルシアに引率されるメンバーが集まっている所だった。

「おいミカド。 そんな不安そうにしなくても、みんな一緒なんだし大丈夫さ」

不意に、横から能天気な声が降ってきた。

……は……? 不安……? 俺がなんで!?

「か、勝手に人を気弱にするな……!」

ミカドの声が思わず尖る。

人の事を勝手に不安だと決め付ける。

素っ頓狂な勘違いをしているこの男の名前はアレックス。

ミカドから見れば、幼馴染という強力な免罪符を盾に、やたらと絡んでくるウザい奴だった。

アレックスは、いつだってそうだ。

幼馴染というだけの関係を当たり前のように盾にして、こちらの境界線に土足で踏み込んでくる。

ウザいから、つい口をついて言葉が出る。

「こっち見んな。 ウゼェ」

苛立ちを隠そうともせず吐き捨てた。

けれど、発した声はミカド自身が思うよりもずっと小さい。

アレックスは、その声が聞こえていて気にしないフリをしているのか、それとも本当に聞こえなかったのか。

相変わらずの爽やかな反応からは、どうしても判断がつかなかった。

アレックスの持つ、その毒気の無い無邪気な余裕。

それが、ミカドが逆立ちしても手に入らない眩しすぎる輝きだからこそ、視界に入るだけで胸の奥がじりじりと焼け付くように痛むのだ。

……俺は別にアレックスが嫌いな訳じゃない。

誰に対してというわけでもないが、ミカドは心の中でそう言い訳をした。

ミカドの目に映るアレックスは、自分がどうしても欲しくて、けれど逆立ちしても持てないもの……それを、その両手に全て持っているように見えた。

それがミカドの劣等感を、これでもかと激しく刺激する。

分かっている。

分かっているのに、どうしても我慢ができない。

結局のところ、俺の胸にあるのは、ただの醜い妬みだった。

その醜い感情を、ミカドは誰よりも……自分自身がはっきりと自覚している。

だからこそ、胸の奥に渦巻くイライラが、どうしても抑えられないのだった。

ミカドの悪態をサラリと聞き流し、アレックスは懲りずに隣のソーマへそのまま声をかけ始めた。

「ソーマもさ、心配し過ぎるなよ?」

……お前のそういう所が、本当にムカつくんだよ。

躱された側からすれば、ムカつくというのは羨ましいのと同義だった。

アレックスの持つ、あの余裕があって毒気の無い態度が羨ましく、そして大嫌いだった。

そんなアレックスから気遣われたソーマは、満更でも無さそうに少し笑顔になって答えた。

「だよな。みんな一緒なんだ。それに、向こうで拠点を作れば安全に過ごせるって話だし」

ソーマは自分に言い聞かせる様にアレックスの言葉を反芻する。

けれど、不安が拭えていないのは傍目にも明らかだった。

そんな感じで、右も左も落ち着き無くそわそわしている奴等ばかりだった。

右を見れば、仲間の女子……リオニが血の気の引いた顔で、必死に不安を口にしている。

「私は不安……だけど、みんないるから……き、きっと……」

後に続くであろう『大丈夫』という言葉は、リオニの口から出てこなかった。

言葉にならなかった感情を飲み込むように、目を閉じてブツブツと何かを唱えている。必死に不安を押さえ込もうとしているのだろう。

「チッ!」

かと思えば、仲間の不安そうな態度に思いっきり舌打ちをしている奴もいる。

こんなのでも仲間で、問題児のダビだ。

気に入らない事があると直ぐ相手に殴り掛かったりする暴力的な性格をしている。

そのくせ仲間意識が強く、仲間に危害が加わるような事があれば必ず守ろうと動く一面を持っていた。

おそらく天邪鬼タイプなのだろう。

不安を隠せない仲間に苛つくのは理解できない事もない。

……ただ……ダビの奴、露骨に出し過ぎじゃないか? そんなにイライラしなくても……。

ダビを見てイライラが収まったミカドは、自分の事を棚に上げながらそう思った。

「ははっ。まあ、不安とか? 意味無いだろ? 何にも分かんないのに不安もクソも無えじゃねぇか。それなのに不安? 馬鹿じゃねぇの?」

明るく空気を壊すこの男はホセ。

いつも悪気無く事態を悪くする、失言の常習犯でもある。

周りが苛ついているのにも気が付かず、一人で楽しそうにしていた。

終始そんな調子なのが、更に質が悪い。

その代わり、裏表が無い。

こいつもダビと同じで仲間思いである。

性格はアレだが良い奴だ。

……ただ……よくもまあ仲間に嫌われる発言をあんなに明るく言えるな……。凄く神経を逆撫でしてるぞ……。

人を不快にさせながら純粋に楽しそうにしているホセの性格も、ミカドは少し羨ましいと思っていた。

……いや、やっぱり羨ましくないな。

ミカドは他人の目が気になる方だ。

そのせいで、こんなにも閉鎖的な性格と態度になってしまっている。

端的に言うと、他人に嫌われたくないと思うあまり、初めから嫌われる態度を取っている。

本末転倒な行動に見えるが、そうする事で自身に好感を向けてくれる相手から嫌われるという変化は回避できる。

要は、好意から嫌われるのを恐れる小心者で……極端なのだ。

他の仲間も、表情が一様に暗いように見える。

みんなの中に不安が渦巻いているのだろう。

そんな状態の若人が、自分を含めた総勢15人で……不安を抱えたまま明日、出発の日を迎える事になっていた。

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