【第1話】 旅立ち……① 歪んだ羨望、醜い妬みの自覚

2026年9月26日

アドセンス横長

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1 旅立ち……①

◆ 鼓膜を震わせる咆哮、鬱陶しい引率役

「いいかッ! 来週にはここを出る! 後で必要だと思っても手遅れだと思え! 後悔しないよう、しっかりと準備しておくように!!」

鼓膜を直接震わせるような、あまりにも巨大な怒鳴り声。

いつも少なくない人が、この声量に圧倒され身を竦ませてしまうのだが、別に怒っているわけではない。

名はガルシアといい、実はかなり面倒見の良い男である。

その面倒見の良さから、今は引率役を押し付けられていた。

大きいのは声だけではない。

身振り手振りもいちいち大きく、そして鬱陶しい。

ガルシアの印象について、一般人を対象にした統計を取れば『個人的な関係は絶対に持ちたくない』……という結果がトップになるだろう。

そんな、個人的には関係を持ちたくない男……ガルシアに引率されるメンバーが集まっている所だった。

「おいミカド。そんな不安そうにしなくても、みんな一緒なんだし大丈夫さ」

不意に、横から能天気な声が降ってきた。

……は……? 不安……? 俺がなんで!?

「か、勝手に人を気弱にするな……!」

ミカドの声が思わず尖る。

人の事を勝手に不安だと決め付けた、この素っ頓狂な勘違いをしている男の名前はアレックスと言う。

ミカドから見れば、幼馴染という強力な免罪符を盾に、やたらと絡んでくるウザい奴だった。

アレックスは、いつだってそうだった……。

幼馴染というだけの関係を当たり前のように盾にして、こちらの境界線に土足で踏み込んでくる。

ウザいから、つい口をついて言葉が出る。

「こっち見んな。 ウゼェ」

◆ 眩しすぎる余裕、醜い妬みの自覚

ミカドは苛立ちを隠そうともせず吐き捨てた。

けれど、発した声はミカド自身が思うよりもずっと小さい。

アレックスは、その声が聞こえていて気にしないフリをしているのか、それとも本当に聞こえなかったのか。

爽やかな態度に変化は見られない……反応から判断するのは難しかった。

アレックスの持つ、その毒気の無い無邪気な余裕。

……気に入らない。

それが、ミカドが逆立ちしても手に入らない眩しすぎる輝きだからこそ、視界に入るだけで胸の奥がじりじりと焼け付くように痛むのだ。

……でも俺は、別にアレックスが嫌いな訳じゃない。

誰に対してというわけでもないが、ミカドは心の中でそう言い訳をした。

アレックスの言動は、一々ミカドの劣等感を刺激する。

けれど、それはアレックスに大きな問題があるからではない。

……分かっている……分かっているのに、どうしても我慢ができない!

結局のところ、俺の胸にあるのは、ただの醜い妬みだった……。

その醜い感情を、ミカドは誰よりも……自分自身がはっきりと自覚している。

だからこそ、胸の奥に渦巻くイライラが、どうしても抑えられないのだ。

今もまた、アレックスはミカドの悪態をサラリと聞き流した。

何気ない事だ。

こういう何気なく見せつけられるアレックスの言動が、ミカドにとっては苦痛だった。

アレックスは、そんなミカドの葛藤など気にもせず、もう隣のソーマへ懲りずに声をかけ始めている。

「ソーマもさ、心配し過ぎるなよ?」

掛けられた言葉に嫌味は感じられなかった。

……お前のそういう所が、本当にムカつくんだよ。

ミカドのムカつくという感情は、裏返せば羨ましい……というのと同義だった。

アレックスの持つ、あの余裕があって毒気の無い態度が羨ましく、そして大嫌いだった。

……ああ!  もう!

自分の感情が滅茶苦茶なのは分かっているが、どうにもならなくて、ミカドはおかしくなりそうだった。

一方で、アレックスから気遣われたソーマは、ミカドとは違い満更でも無さそうに少し笑顔になって答えた。

「だよな。みんな一緒なんだ。それに、向こうで拠点を作れば安全に過ごせるって話だし」

ソーマは自分に言い聞かせる様にアレックスの言葉を反芻する。

けれど、不安が拭えていないのは傍目にも明らかだった。

◆ 15人の若人、渦巻く不安の出発

そんな感じで、右も左も落ち着き無くそわそわしている奴等ばかりだった。

右を見れば、仲間の女子……リオニが血の気の引いた顔で、必死に不安を口にしている。

「私は不安……だけど、みんないるから……き、きっと……」

後に続くであろう『大丈夫』という言葉は、リオニの口から出てこなかった。

言葉にならなかった感情を飲み込むように、目を閉じてブツブツと何かを唱えている。必死に不安を押さえ込もうとしているのだろう。

「チッ!」

かと思えば、仲間の不安そうな態度に思いっきり舌打ちをしている奴もいる。

こんなのでも仲間で、問題児のダビだ。

気に入らない事があると、直ぐ相手に殴り掛かったりする暴力的な性格をしている。

そのくせ仲間意識が強く、仲間に危害が加わるような事があれば必ず守ろうと動く一面を持っていた。

昔から天邪鬼タイプなのだ。

不安を隠せない仲間に苛つくのは理解できない事もない。

……ただ……ダビの奴、露骨に出し過ぎじゃないか? そんなにイライラしなくても……。

ミカドの目から見て、ダビのイライラは明らかに過剰に映っている。

ダビを見てイライラが収まったミカドは、自分の事を棚に上げながらそう思った。

「ははっ。まあ、不安とか? 意味無いだろ? 何にも分かんないのに不安もクソも無えじゃねぇか。それなのに不安? 馬鹿じゃねぇの?」

明るく空気を壊すこの男はホセ。

いつも悪気無く事態を悪くする、失言の常習犯でもある。

周りが苛ついているのにも気が付かず、1人で楽しそうにしていた。

終始そんな調子なのが、更に質が悪い。

その代わり、裏表が無い。

こいつもダビと同じで仲間思いである。

性格はアレなんだけど、根は良い奴なんだよな……ただ……よくもまあ仲間に嫌われる発言をあんなに明るく言えるな……。凄く神経を逆撫でしてるぞ……。

人を不快にさせながら純粋に楽しそうにしているホセの性格も、ミカドは少し羨ましいと思っていた。

……いや、やっぱり羨ましくないな。

ミカドは他人の目が気になる方だ。

そのせいで、こんなにも閉鎖的な性格と態度になってしまっている。

端的に言うと、他人に嫌われたくないと思うあまり、初めから嫌われる態度を取っている。

本末転倒な行動に見えるが、そうする事で自身に好感を向けてくれる相手から嫌われるという変化は回避できる。

要は、好意から嫌われるのを恐れる小心者で……極端なのだ。

他の仲間も、表情が一様に暗いように見える。

みんなの中に不安が渦巻いているのだろう。

そんな状態の若人が、自分を含めた総勢15人で……不安を抱えたまま明日、出発の日を迎える事になっていた。

アドセンス横長

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