【第31話】 生還と仲間の変化……② 退路遮断、飢えたハイエナたちの追及

2026年11月8日

アドセンス横長

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7 生還と仲間の変化……②

◆ キナーク砦、いつもの酒場

今回の惨劇でオドニスの加入したパーティは、生き残ったゴーズとオドニスの2人だけになってしまったらしい。

オドニスは現在、精神的なショックから完全に引き籠もってしまっているらしく、アレックスが何度もご飯に誘ったものの、すべて虚しく断られたのだと移動中の道すがら教えてくれた。

その道中の雰囲気は少し暗く、酒場に着いてからしばらくは豪快に飯を食い、普段以上の凄まじい勢いでみんな酒を煽っていた。

最初こそ『不謹慎なんじゃないか』と、いつもより静かだった面々も、時間が経ち、酒が進むにつれて、徐々にいつもの騒がしい調子を取り戻していった。

今はいつも以上に騒がしくはしゃいでいる。

勢いでアルコールを回さなければ、オドニスの欠損や、仲間を失っていたかもしれない……という生々しい空気と気持ちが消化できないのかもしれない。

「いやー、今回は本当にダメだと思ったよ。あっ、これ私死んじゃうなぁって!」

そう言うリオニは、エールをぐいぐいと飲み干しながら、ゲラゲラと声をあげて笑っていた。

死の境から安全な場所まで帰れた事による安堵感で、気持ちが軽やかになっているのだろう……生きて帰れたからこそのブラックジョークだ。

「いやー! 俺はミカドたちのことだから、どうせしぶとく生き残ってると確信してたけどな! さすが俺の直感、冴え渡りまくり!!」

ホセはとりあえず調子のいい事ばかりを並べ立てながら、場を大げさに盛り上げている。

ミカドはそんな喧騒のなか、いつも通り、自身の定位置であるテーブルの隅っこでひっそりと気配を消していた。

それは遭難する前のミカドとまったく同じ光景だったが――ミカドの内面には、今までとは決定的に違う変化があった。

……おっ?……また、不安がってるな。

暗闇の向こうから流れ込んでくる『顔の見えない相手』の気配。

いつまでも名前が無いと何となく不便だし、何より愛着が湧かないので、ミカドは頭の中でその存在を仮名で『ナナ』と呼ぶ事にした。

いまも、ナナのどこか怯えたような不安な感情が、不確かな繋がりを通じて胸の中に直接流れ込んでいる感じがしている。

ここしばらくのやり取りで、ナナはミカドからの反応が少しでも途絶えると、居ても立ってもいられなくなるほど不安に陥ってしまう性質なのだと分かった。

……まるで懐いた犬みたいだ。

『心配ない。ちゃんといる』

頭の中で、優しく諭すように……マナを循環させて発信する。

たったそれだけで、流れ込む感情が……激しい不安や寂しさといったネガティブなものから、一瞬にして弾けるような安心感と喜びに変化するのだ。

「あ! またニヤけてる……」

「え? いや……ニヤけてないし……」

正面からのリオニの鋭い指摘に、ミカドはハッと我に返り、自分の表情がだらしなく緩んでいた事に気付いた。

ただ、それをリオニに認めるのは、なんだか負けた気分になるので絶対に認めたくなかった。

そして、湧き上がる恥ずかしさと決まり悪さから、顔が熱くなるのを感じる。

「いーや! 絶対にニヤけてたね! 間違いないもん!」

……くそ、油断した!

ナナとの繋がりに没頭しているところを仲間に勘付かれたら、絶対に面倒な事になるのは最初から分かりきっている。

エールが綺麗に回ってすっかり出来上がっているリオニは、ミカドが絶好の玩具に見えているのだろう。

追求の姿勢を一切緩めてくれそうにない。

……これはかなり面倒なことになったぞ。

ミカドが冷や汗を流していると、隣の席にいたグリップが底意地の悪そうな目でこちらを覗き込んできた。

「ん〜?……何か面白い事でもあったのか、ミカド」

……うわ、グリップまで釣られて来やがった。

「なになに? 面白い話だって!?」

さらに最悪な事に、メンバーで一番の爆弾であるレベッカまでもが、獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべて面白がって近付いてくる。

……勘弁してくれ。レベッカの絡みはマジで洒落にならないんだって!

「それがさぁ! ミカドが遭難中から何かこう……1人でよくニヤニヤしてるんだよ! 私が疲れて、お腹が空いて死にそうって時もさ? なんか急に元気になったりさ!?」

……おい、リオニ、余計なことを喋るな!!

彼女の口から次々と暴露される遭難中の自身の奇行が暴露され、ミカドは最悪な未来……嫌な予感、生命の危機しか浮かんでこなかった。

「ふーん?」

案の定、あのお調子者のホセまで気を惹かれたらしい。

「ははーん……さてはお前ら……遭難中に、2人きりの洞窟の暗闇でチョメチョメ的な何か熱ーい……アクシデントでもあったか!?」

……こいつ!!……マジで最低だな!?

ミカドは内心で叫びながら、ホセの顔面に今すぐ雷魔法を叩き込みたい衝動を必死に理性で捩じ伏せていた。

◆ 凍りつく背筋と、必死の「スープ煙幕」

「チョメチョメって何よ! でも、んー。いや? 何も無かった……と思う、よね?」

そう言った直後、リオニはふと何かを思い出したように、怪訝な顔のままミカドを見て、それからまた言葉を続けた。

「あっ! でも、私……体調を思いっきり崩したときの事は、覚えてなくて、何も思い出せないんだよね……」

「へぇ? 無防備なリオニ……いや、なんでもない……」

アレックスが特大の失言をかまし、ミカドの背筋は『ピキ』と、完全に凍りついた。

リオニが何も考えずに口にした言葉がアレックスにより無駄な脚色がされ、聞いていた仲間が色めき立つのを感じた。

心臓が嫌な音を立てさせて跳ね上がり、全身から脂汗が出る不快感に襲われたが、ミカドはそれでも動揺を隠して耐えた。

リオニの知らない事実を言えば、恐らく――いや、間違いなく殺される。

これは比喩でも何でもない。

孤児院仲間の間でずっと流行っている物騒な流行……加護持ち女の異常な握力と、激怒が重なった時、女は不快にさせた男の頭蓋骨をメキメキと音を立てて握り潰してくる……。

知られれば十分に起こり得る……いや、これは確定した未来なのだ。

……絶対に先手を打たなければ!!

「本当に知りたいの……? 止めた方がいいと思うけど……」

ミカドは、これ以上ないほど重々しく、そしてどこか悲壮感を漂わせた声音で、じっとリオニの瞳を見つめ返した。

……この策が成功しても恐らく無事じゃ済まないだろうなぁ。……それでも、あの『ケツの穴から虫の流動食ダイレクト注入』を全て曝け出すよりはよっぽどマシなはず…………!

「そう言われたら、何か……怖いんだけど……」

ミカドのあまりにも真に迫った不穏な空気に、リオニの瞳に明確な躊躇いの色が浮かび上がる。

……お? いいぞ。できればそのまま、ここで引き返してくれ!

頼むからこれ以上追及しないでくれと、それがお互いのためなんだと、ミカドは心の底から願った。

「ほら、知らない方が良いよ。そうだな、このスープだって凄く美味しいでしょ?」

ミカドはすかさず、テーブルの上の料理を指差しながら、みんなの興味を煙に巻こうといつになく口調が饒舌になった。

しかし、脳裏に浮かんでいるのはあの時の昆虫やカエル、得体の知れない生物、甘噛みしかできなかったグロテスクな食感だった。

「この美味しいスープだって、中身が何か……詳しく知ったら食べられなくなるかも知れないよ?」

喋っていると、スープの原料があの時の虫やカエルに思えてくるから不思議なものだ。

……そうなんだよ、大事なのは何を入れてこの味になったのかじゃないんだ!

「俺たちはこうして無事にキナーク砦に帰れて、みんなとまた会えた。そして――いま、ここでみんなで美味しいご飯を食べられているってことが大事じゃないかな?」

どこか遠い目をしながら、しみじみと、そして実に胡散臭く語るミカドの姿は、誰がどう見ても不自然極まりなかった。

そして、その必死すぎる不自然さは、当然のように飢えた獣達の興味を更に刺激を与えてしまう。

◆ 退路遮断! 野次馬たちに囲まれた背水の陣

未熟なミカドの思惑は、仲間たちの下衆な興味に餌を与える結果で終わった。

「いやー! 多分ミカドのことだからさ、俺たちの想像を超えるような? そんな驚くようなロマーンチックでびっくりな方法でリオニを助けてくれたんだよな!? なあそうだろっ!? 逆にそんな奇跡の方法なら、みんなも聞いてみたいと思わないか!?」

……!?…………ホセの野郎!!……いらない事をべらべら言いやがって!!

普段は絶対に見せることが無い、こういう時だけ無駄に冴え渡るホセの小聡しさに、ミカドは強烈な殺意が芽生えそうになる。

いつも無視されるホセの言葉が、今回は無視される気配が無いのも地味に痛い……。

「確かに……気になるな……」

隣にいたグリップまで、ごくりと唾を呑んで食いついてくる。

……はあ!? お前もそっちに乗るのかよ!?

ホセの野次馬的な発言をきっかけに、酒が回って出来上がっている宿舎の仲間たちが、一斉に『聞かせろ!』とハイエナのように身を乗り出してきた。

こうなってしまったら、もう何かしらの『答え』を話さない限り、この飢えた猛獣どもは絶対に許してくれないだろう。

退路を完全に断たれ、背水の陣に追い詰められたミカドは――ついに、腹を括った。

「分かった、分かったよ……。でもリオニ、絶対に、聞いても怒って俺を殴るなよ?」

「分かってるよ!! 一緒に苦難を乗り越えた戦友に酷いことする訳ないでしょ!? 私を何だと思ってるのよ!!」

「いいか! 絶対だぞ!? 絶対に怒るなよ!?」

リオニは信じろという表情だが、ミカドは全く信用できなかった。

……嘘をついても殴られる可能性は高い……が、このまま黙っていて殺されるよりはマシだ。

「じゃあ……言うけど…………」

覚悟を決めたミカドの真剣な様子に、仲間の誰か……緊張感を含ませた軽い咳払いをするのが聞こえた……。

アドセンス横長

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