2 自分を形作るもの……②

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2 自分を形作るもの……②

5月頃

「やれやれ、一日で着く距離がとんだ災難だな……」

護衛の冒険者たちをまとめている女冒険者は、立て続けに発生するトラブルに苦々しくボヤいていた。だが、それも仕方のないことだろう。

思い通りにいかないトラブルに遭遇すれば、誰でも嫌な気持ちになるというものだ。

「直せそうにないのか?」

女冒険者が御者台の男に鋭い視線を投げかける。

八つ当たりに見えるかもしれないが、女冒険者のこの行動にはちゃんと意味がある。修理できるのに、修理できないと言っている可能性があるからだ。

「ええ……これは部品が無いので、街まで行かないと修理は無理ですね……」

態度と口調、雰囲気から、御者は面倒だから修理が出来ない……そう言っている訳では無さそうだと判断した。

「そうか……それなら、どこかで野営をする必要があるな……」

御者の返答を聞き、女冒険者は即座にこれからの段取りを考慮し始めた。

ザハグランロッテは馬車の陰から深く考えている様子の彼女を静かに観察していたが、視線に感づいたのか、不意に女冒険者と目が合ってしまった。

すると、女冒険者は彼女と目を合わせたまま真っ直ぐに近づき、気安い調子で話しかけてきた。

彼女としては話したくなかったが、目が合ってから一度も逸らされなかったせいで、逃げるタイミングを完全に失っていた。

……狩りと勘違いしてるんじゃないの?

内心でボヤくがもう遅い。

「すまないね。一日で済むギルドからの依頼だったから、街では自己紹介も省いたが、こうなってはそういう訳にも行かないだろう。私の名前はローズという。馬車のトラブルで、今日のうちに隣町までというのは無理そうなんだ。野営になると思うから、あらかじめ頭に入れておいて欲しい」

ローズと名乗った女冒険者は、旅の予定が狂った状況を飾ることなくそう言って説明してくれた。

ザハグランロッテは、出発前にギルドの書類で同行する冒険者の情報を一通り教えられていた。だから、この女がローズという名前であることも、

その冒険者ランクが「C」であることも事前に知っている。

さらに言えば、ギルドが自分のような訳ありの身を気遣って、わざわざ腕の立つ女性の隊長を用意してくれたのだということまできちんと理解し、正確に把握していた。

しかし、それをそのまま態度に出すような真似はしない。

「トラブルなら仕方ないわ。私にできる事は無いけれど、了承して頂戴」

いつも通り、一切の感情を削ぎ落とした愛想の無い口調。

ローズは一瞬だけ、その突き放すような物言いに肩をすくめて苦笑したが、その後は笑いながら彼女の言葉を了承した。

……ギルドから、私の『性格』は事前にそっちへ伝わっているようね。

ザハグランロッテは内心でそう毒づく。

ちなみに、ローズの持つ「Cランク」という資格は、数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験豊富な部類であり、本来であれば道中の安全を委ねるにはかなり安心できる格付けだった。

「馬車は高価だから、ここに置いていけないんだよね……。足止めは仕方が無いから、そこは勘弁してくれ」

そう言って、想定外の不運を笑い飛ばそうとするローズを、ザハグランロッテはまともに相手にせず、無表情のまま内に生じた疑問だけを端的に投げつける。

「それで、私はどうしていればいいのかしら」

彼女の度重なる失礼とも言える高慢な態度に、流石のローズも今度は明確に呆れたように息を吐いた。

それでも、あまり気にしていない様子なのは、プロとして流石だった。

「お嬢さんは、馬車の中でゆっくりしていれば良いよ。これは護衛の範疇だからね」

「そう、ならそうさせてもらうわね」

用件は済んだとばかりに、ザハグランロッテはすぐに背を向け、馬車へと戻り始めた。

しかし、その澄まし顔の裏側で、彼女は自分の取った態度が本当に正解だったのか、微かな葛藤を覚えていた。

……もう少し、愛想良くした方が良い場面だったかしら。

かといって、学園時代から自分を守るために使い続けてきた長年の処世術だ。

今更その変え方など、自分でも分かりようがなかった。

ここまでの移動中、護衛を務めている男の冒険者たちが、自分の見えない陰で「愛想が無い」だの「能面女」だのと嘲笑混じりに噂しているのは、しっかりと聞き届けている。

そのように言われるのは酷く癪だったが、原因が自分にあるのもまた紛れもない事実だった。

だからこそ、聞こえていないフリをしながら、その陰口を甘んじて受け入れているのだ。

とはいえ、これから過酷な野営をするのだとすれば、周囲と不要な摩擦を生むような対応は、少しばかり悪手だったかもしれない。

悩んだところで栓の無い後悔をしばらく頭の中で転がしていると、ようやく馬車が不自然な振動を伴って動き始めた。

どうやら、引きずりながらでも先に進む段取りは終わったらしい。

「…………」

ガタガタと悲鳴を上げる車輪。思ったよりも遥かに遅いスピードに、ザハグランロッテはこれからの先行きに深い不安を感じずにはいられなかった。

どれほどの時間が経っただろうか。

這うような前進を続ける馬車の荷台の中で、ザハグランロッテは絶え間なく続く不快な音と振動から逃げることもできず、気が滅入りそうだった。

壊れた車軸が上げる「ギチ……ギチ……」という悲鳴のような歪で不気味な軋み。

不快な振動に不気味な軋みが重なるせいで、ただでさえ重い気分が更にすり減ってしまうようだった。

そんなとき不意に、その不快な音を掻き消すように、前方の風上からくぐもった男の声が吹き込んできた。

……また何かあったのだろうか?

確認する前に不幸だと決めつけてしまった自分に、ザハグランロッテは嫌気がさした。

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