【第3話】 自分を形作るもの……②
2 自分を形作るもの……②
5月頃
「やれやれ、1日で着く距離がとんだ災難だな…」
護衛の冒険者をまとめている女冒険者は、立て続けに発生するトラブルにボヤいているがそれも仕方ないだろう。
「直せそうにないのか?」
「ええ…これは部品が無いので街まで行かないと修理は無理ですね…」
「それならどこかで野営をする必要があるな…」
女冒険者は、御者と話してから野営の必要性を考慮し始めていた。
深く考えている様子の女冒険者をザハグランロッテは観察していたのだが、視線に感づいたのか、彼女は女冒険者と目が合った。
すると、女冒険者は彼女と目を合わせたまま近づき、話しかけてきた。
「すまないね。一日で済むギルドからの依頼だったから、街では自己紹介も省いたが、こうなってはそういう訳にも行かないだろう。私の名前はローズという。馬車のトラブルで、今日のうちに隣町までというのは無理そうなんだ。野営になると思うから頭に入れておいて欲しい」
ローズと名乗った女冒険者は状況をそう言って説明してくれた。
ザハグランロッテは事前に冒険者の情報をギルドから教えられていたので、この女がローズという名前である事も、冒険者ランクがCである事も知っている。
更に言えば彼女の為にギルドが女の隊長を用意してくれたのも知っている。
「トラブルなら仕方ないわ。私にできる事は無いけれど了承して頂戴」
愛想の無い彼女の口調にローズは苦笑したが、その後は笑いながら了承した。
ギルドから私の性格は伝わっているのね…。
ちなみにローズの冒険者ランクのCというのは経験豊富な部類で、かなり安心できるランクだったりする。
「馬車は高価だから置いていけないんだよね…」
足止めは仕方が無いから勘弁してくれ…そう笑うローズを、ザハグランロッテは相手にせず、無表情のまま自分の疑問を投げつける。
「それで、私はどうしていればいいのかしら」
彼女の度重なる失礼とも言える態度に、流石のローズも肩をすくめたが、それでもあまり気にしていない様子だった。
「お嬢さんは馬車の中でゆっくりしていれば良いよ。これは護衛の範疇だからね」
「そう、ならそうさせてもらうわね」
要件は済んだとばかりに馬車に向かうザハグランロッテだが、実は自分の態度が正解だったか葛藤していた。
もう少し愛想良くした方が良い場面だったかしら…。
かといって長年の処世術は、今更変え方も分からない。
ここまでの移動中、護衛をしている男の冒険者が影で愛想が無いとか能面女とか言っているのは知っている。
その様に言われるのは癪だが、原因が自分にあるのもまた事実なので、聞こえていないフリをしながら甘んじて受け入れている。
とはいえ野営をするなら少し悪手だったかも…。
悩んだ所で栓のない事をしばらく考えていると馬車がようやく動き始めた。
どうやら先に進む段取りは終わったらしい。
………。
思ったよりも遅いスピードに、ザハグランロッテは先行きの不安を感じた。
「…に、……物…だ。数……ない…だろ…」
……ん…外が…騒がしい??
外から言葉では言い表せない不穏な雰囲気を感じ、彼女は馬車の荷台から顔を覗かせ様子を窺った。
するとローズと他の冒険者がああでもないこうでもないと意見のやり取りをしているのが見えた。
聞こえてくる単語から魔物が先にいるのではないかと予想する。
意見を言い合っているという事は、おそらくまだどうするか行動を決めあぐねているのだろう。
進みながら議論しているのは馬車のスピードが遅いからだろう。
動きが遅く焦りを感じ難いという理由もあるかもしれない。
しかし彼女は、嫌な感じがして直ぐにでも引き返したいという気持ちになっていた。
不安を拭えないまま様子を窺っていた彼女に、ローズが気が付いた。
ローズは彼女に近よると、先の状況を説明してくれた。
「この先に魔物がいるらしい。数は一体ということだが油断はできないから。いま話し合っているところなんだ」
「このまま進むつもり?」
「数が一体なら問題ないはずだ。けど確証がないからな。今は斥候を出している」
「そう…」
「…心配しなくても貴女が危ない目に合わないよう、私たちがしっかり守るさ」
不安が表に出ていたのかローズに気を使われてしまった。
「無理をする必要は無いでしょう。私は引き返したほうが良いと思う」
彼女は言っても無駄だろうと思いながらも、自分の考えを伝えてみる。
「はぁ? それだとギルドの仕事をすっぽかす事になるぞ?」
まるでザハグランロッテの考えが見当違いでもあるかのようなローズの反応に、思わず苛つきを覚える。
けれど、ここで揉めたり簡単に引くのは違う気がした彼女は、ローズにもう少し強く出てみることにした。
「順番は間違えない事ね。ギルドの仕事より無事でいる事が大前提でしょう」
「……ふむ…よし、それならそれを踏まえて相談してこよう」
険のある口調で提案したので反発も覚悟したが、ローズは彼女の意見を尊重してくれたようだ。
やっぱり…落ち着いているわね…。
ランクC冒険者か…私よりよほど大人ね…。
先程のやり取りを思い返しながら、彼女は自分の高圧的な対応を少し恥ずかしく感じていた。
ローズたちが話し合う間、やる事が無いのでぼーっと景色を眺めていた。
目の前には森と山が広がっている。
静かだが、この山や森の中には数え切れない魔物や魔獣が潜んでいるのだ。
そう考えると、ここもやっぱり安全とは言えないわね…。
「お嬢さん」
もの思いに耽っていた彼女は不意に声をかけられてようやく、すぐそばにローズが来ていたことに気が付いた。
「私の名前はザハ・グランロッテよ」
特に意味は無いが、気付いていなかったと思われたくなくて、お嬢さんと呼んだローズに訂正を求めた。
名前が微妙に違うのは、没落貴族だと分かると面倒な事が多くなるため、家を出てからはスカーバラではなく、グランロッテという偽名を名乗っているからだ。
「馬車は高価だから置いていけないんだよね…」
足止めは仕方が無いから勘弁してくれ…そう笑うローズを、ザハグランロッテは相手にせず、無表情のまま自分の疑問を投げつける。
「それで、私はどうしていればいいのかしら」
彼女の度重なる失礼とも言える態度に、流石のローズも肩をすくめたが、それでもあまり気にしていない様子だった。
「お嬢さんは馬車の中でゆっくりしていれば良いよ。これは護衛の範疇だからね」
「そう、ならそうさせてもらうわね」
要件は済んだとばかりに馬車に向かうザハグランロッテだが、実は自分の態度が正解だったか葛藤していた。
もう少し愛想良くした方が良い場面だったかしら…。
かといって長年の処世術は、今更変え方も分からない。
ここまでの移動中、護衛をしている男の冒険者が影で愛想が無いとか能面女とか言っているのは知っている。
その様に言われるのは癪だが、原因が自分にあるのもまた事実なので、聞こえていないフリをしながら甘んじて受け入れている。
とはいえ野営をするなら少し悪手だったかも…。
悩んだ所で栓のない事をしばらく考えていると馬車がようやく動き始めた。
どうやら先に進む段取りは終わったらしい。
………。
思ったよりも遅いスピードに、ザハグランロッテは先行きの不安を感じた。
「…に、……物…だ。数……ない…だろ…」
ん…外が…騒がしい??
外から言葉では言い表せない不穏な雰囲気を感じ、彼女は馬車の荷台から顔を覗かせ様子を窺った。
するとローズと他の冒険者がああでもないこうでもないと意見のやり取りをしているのが見えた。
聞こえてくる単語から魔物が先にいるのではないかと予想する。
意見を言い合っているという事は、おそらくまだどうするか行動を決めあぐねているのだろう。
進みながら議論しているのは馬車のスピードが遅いからだろう。
動きが遅く焦りを感じ難いという理由もあるかもしれない。
しかし彼女は、嫌な感じがして直ぐにでも引き返したいという気持ちになっていた。
不安を拭えないまま様子を窺っていた彼女に、ローズが気が付いた。
ローズは彼女に近よると、先の状況を説明してくれた。
「この先に魔物がいるらしい。数は一体ということだが油断はできないから。いま話し合っているところなんだ」
「このまま進むつもり?」
「数が一体なら問題ないはずだ。けど確証がないからな。今は斥候を出している」
「そう…」
「…心配しなくても貴女が危ない目に合わないよう、私たちがしっかり守るさ」
不安が表に出ていたのかローズに気を使われてしまった。
「無理をする必要は無いでしょう。私は引き返したほうが良いと思う」
彼女は言っても無駄だろうと思いながらも、自分の考えを伝えてみる。
「はぁ? それだとギルドの仕事をすっぽかす事になるぞ?」
まるでザハグランロッテの考えが見当違いでもあるかのようなローズの反応に、思わず苛つきを覚える。
けれど、ここで揉めたり簡単に引くのは違う気がした彼女は、ローズにもう少し強く出てみることにした。
「順番は間違えない事ね。ギルドの仕事より無事でいる事が大前提でしょう」
「……ふむ…よし、それならそれを踏まえて相談してこよう」
険のある口調で提案したので反発も覚悟したが、ローズは彼女の意見を尊重してくれたようだ。
やっぱり…落ち着いているわね…。
ランクC冒険者か…私よりよほど大人ね…。
先程のやり取りを思い返しながら、彼女は自分の高圧的な対応を少し恥ずかしく感じていた。
ローズたちが話し合う間、やる事が無いのでぼーっと景色を眺めていた。
目の前には森と山が広がっている。
静かだが、この山や森の中には数え切れない魔物や魔獣が潜んでいるのだ。
そう考えると、ここもやっぱり安全とは言えないわね…。
「お嬢さん」
もの思いに耽っていた彼女は不意に声をかけられてようやく、すぐそばにローズが来ていたことに気が付いた。
「私の名前はザハ・グランロッテよ」
特に意味は無いが、気付いていなかったと思われたくなくて、お嬢さんと呼んだローズに訂正を求めた。
名前が微妙に違うのは、没落貴族だと分かると面倒な事が多くなるため、家を出てからはスカーバラではなく、グランロッテという偽名を名乗っているからだ。

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