【第24話】 曖昧な世界と揺蕩う意識……① ボヤけた世界、近づくみなも
5.5 曖昧な世界と揺蕩う意識……①
周りを見ても全てが曖昧な世界のなかで、私は今日もフラフラと彷徨っている。
目的も、意味もない。自分が何のために生きているのかさえ、もう分からない。
ただ……あてもなく、フラフラと、フラフラと……。
何かを考える力も、それを生む気力すら……深く沈み……輪郭すら失っている。
まるで薄い雲のように、輪郭がボヤけて消えていく。
意識は暗く深いところに落ち続け……色彩はとうに失われ……まわりの全てがゆっくりと沈み込んでゆく。
……世界はいつから、こんなに色を無くしてしまったんだろう……?
私は、そのすべてが霧のように霞んだ世界……ただボンヤリと、ユラユラ……フラフラと漂うだけだった……。
霞のように、あるいは深く昏い水底のようにボヤけた世界……ときおり、その最深部から何かが急激に浮上し、輪郭が戻る瞬間が訪れる……。
爆発的に形成される輪郭は、一瞬で私を赤く塗りつぶしながら尖らせる。
赤く……尖った私は、底のない暗闇から突き上げる鋭く細い針だ。
本能のまま敵を穿ち……そしてまた、泡を立てて霧散する……。
……そうしてまた沈む……気がつけば……私の世界はまた、何事もなかったかのようにボンヤリと、重くボヤけているのだ……。
フラフラと歩き、ユラユラと漂う。
……私の世界は、今日もボヤけている。
……いつもの澱んでボヤけた世界……そこに、おかしなモノが混じっていた。
この沈み切った深い底には、決して存在しないはずの温もりのある仄かで淡いなにか……。
あれは……何だろうか?
……手を伸ばせば、届きそうだ。
手を……伸ばしても、いいのだろうか……?
けれど、儚すぎる。
消えてしまいそうだ。
……あれ……?
私は気が付いた……いつの間にか、誘われるように進んでいることに。
沈んだ私の視界がぐるりと回る……相変わらず世界は暗く……ボヤけたままだった……。
フラフラと、前へ……。
……私は何をしていたんだっけ?
よく分からなくなって、ユラユラと、立ち止まる。
……どうするんだっけ…………。
気が付けばまた、フラフラと……澱みのなかを、私は進んで行く……フラフラと……。
そして……仄かで淡い『それ』は輪郭をなくし……いつものように、急激に尖った私が赤く染め上げられるのだ……。
私は何をしているのだろう……また、血が世界に溶けて消えていく……。
……溶けるようにして、私は……世界は……さらに深い底へと、重くボヤけるのだ。
私を誘うソレは、決して大したモノではない。ただ、ほんの少し気になるというだけだ……。
……ずっと昔の、どこか懐かしい……そう、感じるものだった。
私は……ソレに触れたくなっていた……。
――何に?
分からない……。私は、一体何に触れたかったのだろう……。
問いかけた傍から全てが溶け……分からなくなって……私は、ただユラユラと揺れていた。
深く暗く沈んだ底で……進むこともできずに……ユラユラと……ユラユラと……。
そしてまた突然……ボヤけていた世界に、輪郭が現れる……。
いつものように、赤く尖った私は本能のまま敵を穿ち、また溶けるようにして、世界の輪郭は重くボヤけるのだ……。
…………? 浅い?
ソレに気付いてしまった私の胸の奥は、チクチクと、静かにざわついていた。
不快だが、ボヤけた世界を彷徨うだけだった私にとって、それはあまりにも新鮮な感覚だった。
新鮮で、懐かしい。……懐かしい?
少し不快で……そしてその不快さが、世界の輪郭をほんの少しだけ、鮮明にしてしまった。
私は、鮮明なのが嫌いだ……。早く……早く、世界がボヤけてほしかった。
ソレは、いつも感じられるモノではなかった。
……ソレを感じたとき、私は既に、フラフラと動いている。
フラフラと……フラフラと……何処へ?
私は、ソレを追っている。
不快なソレは、私に世界の輪郭を無理やり意識させる……。
……なのに気が付けば……私はその不快なソレを、霞んでボヤけた世界のなかで探している。
ボヤけた、輪郭の無い世界と。
赤く染まり、尖った私と鮮やかな輪郭を持つ世界。
私の世界は、そのふたつだけだった。
私は、ユラユラと揺れている……。
ソレは、私の世界を根底から揺るがし……感じる時と、感じない時がある。
感じない時、すべてはただの勘違いだったのではないかと、私は激しい不安に襲われた。
私の世界に、輪郭なんて要らないはずなのに。
不快なソレを感じる。……すると私はホッとし、世界に、冷たい輪郭があらわれる。
不快なソレを感じない。……すると私は不安になり、世界は、また無惨に輪郭を失った。
ソレの来る方向は、いつも同じだった……。
顔を上げてみる……ボヤけた世界に輪郭が見える……?
輪郭……。これは、何?
何だろう……?
私は……私は、だれ……?
感じる……不快、なのに、ホッとする……。
なんだろう……。
ボヤけている……。
ボヤけている、の……?
……なぜ……?
味気ない世界だ。味気ない世界だった。味気ない世界だった……?
分からない。
私は……。私は……?
感じる、不快な、なにか……。
ときどき……嬉しい……?嬉しいって、なに……?
いらない……いらない。輪郭は要らない。
邪魔だ……。
私は赤く尖り、本能のまま敵を穿ち、霧散する。
霧散する。霧散する……。
霧散……。霧散……?
なのに、残る……。
残る……?残っている、の……?
少しだけ……世界の、輪郭が……戻ってくる……。
怖い。怖い……怖い……。
戻るのは……だめ……。世界はボヤけているの……。
世界に、輪郭は要らない……。
怖い……怖い……。
感じる……向こう側に……。
いらない……いらない……。いやだ……いらない……。
不安……怖い……輪郭が……。
感じない……それ、が、一番……怖い……。
敵……。

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