【第28話】 生存の代償……③ 終わりの始まり、冷めた瞳の覚醒

アドセンス横長

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6 生存の代償……③

◆ 遭難6日目:広すぎる空間、闇から見つめる視線

睡眠不足と焦燥感が少しずつ積み重なっていく。

自分の五感が狂っている自覚はあるミカドも、どのくらい狂っているかは分からない。

暗闇の中にありもしない光の残像が明滅し、耳鳴りは常にモンスターの咆哮にも聞こえる。

その事象を幻覚や幻聴だと判断する冷静さは残っているが、だから大丈夫……とは、とても言えないだろう。

自分がそうであるように、恐らくリオニも問題を抱えている。

日に日に衰えていくその横顔は、暗闇のなかでも分かるほど白く、心配を誘った。

健康状態の悪化が、今後どんな影響をもたらすのか……それは間違いなく不安材料だ。

そんな心身が疲弊しているなか、2人は洞窟の開けた場所――広大な空間に着いてしまう。

「ここは少し広すぎるわね……」

声を潜めたリオニの輪郭が、かすかに震えていた。

広すぎる空間は致命的なリスクだ。

大型のモンスターの寝床である可能性が発生し、隠れる遮蔽物もない。

できれば引き返して別の道を選びなおしたいと思った。

「何かいないか念入りに調べてから進もう……」

しかし、かすれた声でリオニは突破を選択しようとしていた。

その瞳の奥には、恐怖を必死にねじ伏せるような頑なな光が宿っていた。

……リオニはここを通る気なのか。

だいぶ疲れているが、彼女の気力はまだ健在のようで安心した。

ここまで来たら、体力よりも気力の方が大事になってくる。

……やる気を削ぐよりここを突破した方がマシ……だよな……。

リオニの考えを否定するつもりが無くても、違う提案自体が気力を削いでしまう可能性がチラついた。

「分かった、注意して進もう……」

ミカドは引き返すことよりも、リオニの気力を優先する選択を選んだ。

彼女の背中を追ってミカドも広い暗闇の空間に足を踏み入れた。

だが、その一歩を踏み出した瞬間、ミカドの狂いかけた肌に異様な悪寒が走る。

――見られている。

おそらく気のせい……ミカドの理性は冷静に判断をくだしている。

それでも、この暗黒の奥の奥、視線の届かない闇の深淵から、何かが自分たちをじっと見下ろしているような感じが纏わりついていた。

◆ 遭難7日目〜9日目:止められない歩みと、育ち続ける疑念

もうどのくらい時間が経ったのか……いくら考えても分からなくなっていた。

余計な事はなるべく考えないように意識し、生存に必要なことだけを考える。

魔物や魔獣が近くにいれば、まず漂ってくる獣臭で気がつく事が多い。

爬虫類や虫系の魔獣の場合、蜜のような甘い臭いがしたり特徴的な音を出す。

明かりを使う魔物がいる事もある。

知能がある証拠で、知能の無い魔物や魔獣を相手にするよりも危険で緊張する。

相手より先に発見しなければ命を落としてもおかしくない。

そうやって逃げたり倒したりを繰り返しながら探索を続けることで、本能的に行動が生存特化へと最適化されていく。

魔物や魔獣に遭遇したら、基本は逃げるかやり過ごす。

あるいは、勝てるものだけ殺す。

殺した場合、その死骸を使って危険を避ける道具として使い捨てる。

その繰り返しが、洞窟で生き延びる経験値として着実に積み上がっていった。

もちろん運も味方したと思う。

でも、先は見えなかった……。

――このままで良いのか?

分かり切った疑問を思い浮かべて気分が沈む……。

技術が増えても、生き延びる術を覚えても、何一つ見える気配がない。

『その先の光は?』

一緒に歩いているリオニの声を、もう長い時間……聞いていない。

暗闇は、喜怒哀楽を表現する刺激を与えてはくれない……。

それを同行者に確認することさえ躊躇われてしまう。

これはただ、死ぬまでの時間が……苦しむ時間が引き延ばされ、増え続けているだけではないのか……そんな考えないようにしている疑念が、昏く膨れ上がる。

それでも、足を止めれば可能性はゼロになる。

だから、足は止められない……。

――それが正解では無かったとしても――。

◆遭難10日目〜12日目:冷めた瞳の覚醒、嘘で塗り固めた土産話

「大丈夫そうだけど……どう思う?」

「私もそう思うけど……ちょっと待って……」

道が大きく曲がり、その先は完全な闇しか見えなかった。

魔導具の明かりは目立ち過ぎる。

モンスターに位置を知らせるような真似は自殺行為だ。

布を幾重にも巻き、必要最低限まで光を絞り込んだ簡易ランタンは、足元を確認するだけで精一杯。

数歩先を照らすことすらままならないのだ。

リオニが地面の石を拾い、暗闇の向こうへと放り投げる。

『コッ!ココ……』

硬い石が、まず奥の壁に当たり、そのあと地面に落ちたような……そんな音が不気味に反響した。

「……反応……無いね…」

「大丈夫そうね……行きましょう……」

息を殺して気配を窺ったあと、リオニが掠れた声で告げた。

引き返す道はない。2人はただ……次の壁へと縋るように足を動かす。

――次の壁だ。印さえあれば……。

暗闇に目を凝らし、ひたすら探索の痕跡を探す。

救助隊、あるいは自分たちがかつて残したはずの、壁の印。

それさえ見つければ、この生き地獄からキナーク砦へと帰れるはずなのだ。

分かれ道に突き当たるたび、2人は祈るような気持ちで探索痕を貪り探していた。

けれど、残念ながらまだ見つかってはいない。

探索痕は、方向を間違えていたらまず見つからない……誰かが一度でも通っている必要がある。

キナーク砦は開拓の最先端であり、更なる開拓を目指して探索が行われている。

もしも自分たちが探索された場所より更に先に向かっていたとしたら……探索痕は絶対に見つかることは無いのだ。

少し進んでは周囲を警戒し、また少し進んでは息を殺して周囲を警戒する。

もう、どれくらいこれを繰り返しただろう……。

まともな睡眠は、もう何日も取れていない……そのうえ食料も、底を尽きかけていた……。

――もしも、進む方向を間違えていたら本当に。

……詰みだ。

暗闇の静寂が長引くほど、不安の種は不気味に育つ……いま、その芽がミカドのなかで育ち始めていた。

◇ 無くなる食料と、終わりの始まり

「これが最後……」

最後の、本当に最後の小さな干し肉を、味がしなくなるまで噛み続ける。

ついに、持っていた食料が完全に底を尽いてしまった……。

「この壁も外れか……先に……進もう…………」

壁に印はない……ここも探索されていない未開拓エリアだった……。

思わず座り込みたくなる気持ちを無心になることで遠ざけた……が、そいつはすぐに戻ってきてしまう。

……立ち止まるな、死を待つだけになる。

無心が駄目ならと、ミカドはリオニの事を考える……そうして、痩せ我慢だけで座り込みたい気持ちを強引にねじ伏せてみる。

1人なら、もうとっくに諦めて暗闇に意識を投げていただろう。

リオニの存在が、辛うじてミカドを諦めから遠ざけていた。

「ごめん……ちょっと、休ませて……」

重たい足を無理やり進めようとしていたミカドの背中に……重い声が落ちた。

振り返ると、リオニはその場から一歩も動かず佇んでいた。

ミカドだって、本当は一歩も動きたくはなかった。

死ぬほど休みたかった。

だから、彼女の口から拒絶の言葉が出たとき……それを拒むことなどできなかった。

むしろ、これで堂々と立ち止まれると、醜くも歓迎している自分が心の底にいた。

――終わる。

リオニの頼みでも、一時休むだけと誤魔化しても、ここで足を止めれば……死は、今か今かと至近距離からこちらを覗いているのだ。

自分たちの命の絶対的な限界を、現実として意識せざるを得なかった。

……えっと、終わりって……こんな感じで来るのかな。

あまりにも静かな『終わりの気配』……それは現実感がまったく伴わないものだった……。

◇ 心のささえ

……寂しそうだな……それに……不安? なのか……?

疲れて横たわるミカドに『顔の見えない相手』の感情が流れ込んでいる。

この感情を受け取ることで、ミカドは精神的にだいぶ助けられていた。

繋がり……。

1人ではないと思える事。

それはミカドに力を与えてくれた。

けれどそれも限界が近かった。

精神的なものだけではない……もう、食料が無い。

地上に出て食料を確保しなければならないが、そう長くは続けられないだろう。

人間は、数がいなければ生きられない生物なのだから……。

『顔の見えない相手』

それはミカドに有って、リオニには無い……。

だからだろう……リオニの気力はとっくに限界まで落ちている。

無理やり引っ張って来なかったら、リオニはとっくに諦めていたかも知れない。

ミカドは『顔の見えない相手』に感謝した……。

◇ 渇望した探索痕と迎えた限界

リオニが……力無く横たわっている……この状態でモンスターに襲われたらもう無理だろう……。

……俺も諦めようかな……いや次の壁は直ぐそこだ……あれを、あそこを最後に調べてから諦めよう…………。

もう何度も何度も期待を裏切られている。

……どうせ今回もきっと痕は無い。

動きたくない気持ちに鞭を打って壁に向かって歩いていく。

どうせ探索痕は無い。

そう思いながら……。

期待しても無駄だと言い聞かせながら……ミカドは布で巻かれた魔導具を壁にかざした。

……どうせ今回も……今回も。

「……あった。…………あった?」

信じられない気持ちで何度も確認する。

「間違いない……印だ……し、印!?」

嬉しかった――。

……やった! これで帰れる……! 助かったんだ……!!

ミカドは急いでリオニの元に報告に向かう。

リオニはミカド以上に疲弊し衰弱し、もう諦めて横たわっている。

……でも大丈夫だ!……これを聞けば元気になるはずだ!!

「リオニ! やったぞ! 印を見つけた! 助かる! 助かるぞ!?」

……これでリオニも自分と同じ様に、嬉しくて元気になる。……そう思っていたのに…………。

「リオニ?」

リオニの反応がない。

……寝ているのか……? まさか死んでいるなんて事は……。

不安になりリオニの呼吸を確認した。

大丈夫だ、生きている。

……衰弱か……? そうなんだな? 水……!? 水がいる! どこだ!? 食料もいるぞ!?……探しに行った方が良いのか?……でもリオニはどうする?……食料も水も、地上に出なければ手に入らない…………。

ミカドの脳裏に魔猿がよぎる。

こんなに衰弱するまで洞窟から出なかった理由……魔猿。

探索痕があるなら魔猿の行動範囲内の可能性が高い……それが怖い。

……くっ……待ってろよ!?

ミカドは悩んだが動けないリオニを置いて、食料と水を探しに行くと決めた。

……印があるなら地上に出られるはずだ。……やっと見つけたんだ! 諦めてたまるかよ!!

リオニに自分の外套をかけてやり、ミカドは重い足を引き摺り歩き出す。

水も栄養も足りていない……リオニよりマシというだけで、ミカドも衰弱しているのだ。

それでも、ミカドは気力を漲らせ――覚悟を決めた。

◇ 大切な仲間、そして家族

意識を失い、衰弱しきっているリオニの事を考えていた。

物心ついた時から知っている家族みたいな仲間。

3回付き合い、3回幻滅を確認した大切な仲間であり家族。

諦める気を無くしたミカドは、リオニのことも諦められない――。

……とにかく水と栄養だ! 絶対に……俺もリオニも助かるんだ!!

生還への絶対的な確信は、ミカドのなかに凄まじい覚悟を形成していた。

すでに限界を迎えていたはずの体力が、気力……精神の力で全力を超えるパフォーマンスを叩きだす。

突き動かされるように、身体の奥底から恐ろしい勢いで湧き上がってくる力も、体力を無視してミカドに元気を与えている。

道に迷わないよう目印を刻みつけ、魔猿を警戒し、洞窟出口付近で手当たり次第に食料をかき集めた。

岩肌の亀裂から滴り落ちる、よく分からない……水だったらいいなと思う液体も、いまは生命維持の水分として覚悟を決めて飲み込んだ。

食料……それは素手でも手に入れられる……蠢く、生々しい命の塊……。

かき集めたそれを、自身の口内へと放り込み、怒りに身を任せるような勢いで噛み砕いた。

割り切ったとはいえ、喉の奥をドロドロと流れる足や毛の感触に、激しいえずきが込み上げるのは仕方のないことだった。

……これは生きるためだ。生きるためなんだ。

涙と涎を撒き散らしながら咀嚼し、強引に胃袋へと流し込む。

自分の栄養補給もそこそこに、食料と水を両手に握り締め、ミカドは急いでリオニの元へと引き返した。

問題は、意識を失っているリオニにどうやって水分と食料を食べさせるかだ……。

……どうせリオニは意識も朦朧としているんだ。そうだ! この際、目的さえ果たせば後の事は知ったことか……!

ミカドは気分の高揚を感じながら……オマールとエマから教わった策を思い浮かべていた。

◇ 勝ち取る生存の代償

長い時間、暗闇という圧力に晒され、受けたストレスは自分で思うよりもずっと影響を及ぼしていた。

降ってわいた希望への執着、執念は凄まじく、それはミカドの行動力にも表れ――。

「……、……、、?」

「リオニ!? 気が付いたか!? 目が覚めたか!? これで……よし……! これで帰れる……!!」

「……まだ……生きてたんだ…………」

リオニの声に落胆の色が見える。

気力を失い……意識を失い……目を覚ましたからといって、利発なリオニが状況を忘れるなんてことはあり得ない……。

絶望の延長線上……意識を取り戻したリオニは依然として、生きる事を諦め、絶望したままだった。

「大丈夫か!? どこか痛いとか……そう怪我! 怪我とかしてないか!? やっと見つけたぞ! やっと! 探索の印があったんだ! これで帰れる! 帰ろう!!」

ミカドの喜びをリオニは冷めた目で見ている。

「…………でも、キナーク砦までまだまだあるでしょ……そんなの、持つわけ無い……」

探索痕があったとしても、それは先端のはずだ……キナーク砦までは遠い。

痕を逆に辿り、道中のモンスターに対処し、また何日も掛けなければ到着しない。

同時に……リオニにしてみれば、遭難の原因、逃げた魔猿のテリトリーに戻った……という事でもあるのだ。

……諦め……そんな声だ。でも、まだ気が付いて無いはずだ!

「リオニは3日も寝てたし栄養も水も摂った! 体力はだいぶ戻ってないか??」

そう言われて、リオニの表情がハッと変わり、自身の身体の変化、回復、感覚に気が付いた。

「身体が、軽い……? 食料は……? もう無かったでしょ? どうしたのよ? 私はどうやって……何を食べたの?」

不思議でも、栄養と休息をとったリオニは、体力が回復し元気さを取り戻している。

目が覚めて最初に聞かされた探索痕の発見も気力を支え、無意識にできた余裕は、リオニの探究心へと向いていた。

理解できない……そう言いながら頭を傾げるリオニを見て、ミカドの背中に大量の冷や汗が噴き出した。

「そ、それは! か、帰ってからの土産話ってことで!」

それまで血走った目を据わらせ……異常だったミカドのテンションが急に我に返っていた……。

後先考えるのを止めていた反動が、リオニの様子で反転し、ここにきて急にミカドに牙を剝きはじめたのだ。

……ムリ無理!……絶対に話せない!!

食料も水も、意識も無い……昏睡状態のリオニにミカドが摂らせたのだ。

意識が無くても排泄はおきる……だから下の世話だってした。

男なら喜びそうなシチュエーションかも知れない。

……きょ、極限状態だったんだぞ!?

心の中で言い訳をしながら、頭の中に生々しい記憶が蘇ってくる。

ミカドは食料として蜘蛛や昆虫、それにカエルを捕まえた。

水は近くの川で手に入れた。

捕まえた虫やカエルは雷魔法で寄生虫まで完全に殺した。

……俺だって食べて飲んだんだ!

リオニを助けたかったが、先に自分の体力回復のために食べなければならない。

どんなに嫌でも……だ……。

口に入れるのにもかなり躊躇する。

噛まないといけないのに、噛みたくなさ過ぎて甘噛みになってしまう。

目からは涙が理由もなくボロボロとこぼれるし、酷い臭いでえづいて胃液まで上がってきた。

それでも頑張って……心を無にして気持ち悪い食べ物を噛み砕いた。

噛み砕き飲み込むまでの咀嚼で心はバキバキに折れていった。

……あの感触や臭いは一生忘れられないだろうな。

『リオニは意識が無かった――』

当然固形物は食べられないし、水を飲む事も出来ない……口に入れたところむせるのは分かり切っている。

専門知識が無くても、喉に詰まらせたり、誤嚥によって肺に異物が入る、それが危険なことは本能的に……そして、少し考えれば分かる事だった。

失敗すれば、その時点で彼女の命は終わる……。

それを解決する為、捕まえた虫やカエルはリオニの代わりにドロドロになるまでミカドが噛み砕いた。

それを水に溶かし、注ぎ込んだのだ。

どこに……??

『けつ』……だ。

安全と結果を重視し、腸から直接吸収させる方法を選んだ。

思い出したのだ、オマールとエマが仲間を失った糞みたいなエピソードを……。

ミカドの心は虫や蛙を口の中でぐちゃぐちゃに噛み砕きながら死んでいった。

リオニの下半身を見ても何も刺激されなかった。

そもそも遭難中なのだ。

男だろうが女だろうが不衛生だ。

そこには乙女の恥じらいも人間の尊厳も存在しない。

あるのは生存のみを目的とした医療行為。

それでもバレたら感謝はされず『殺される』だろう。

――けつから酒を飲んで死ぬ人間もいれば、けつから飲み食いして生きる人間もいる――。


あのとき……妙なテンションで妙な事を考えながらリオニの尻に注入していた。

そんな事はとても本人に言えない。

だからこの話は墓場まで持っていく。

そもそも、アレを口で食べなくて済むリオニが羨ましいなんてズレた感想を思い浮かべていたのだ。

……選べるなら俺だって! 尻から食べたかったからな!!

「まあいいわ……それで、印はどこにあったの?」

延々と頭の中で言い訳をしていたら、リオニの方から話題を変えてくれて心の底から安堵した。

「あ……あぁ、印はそこの角にあったよ」

「はぁ……よかった。合ってたのね……これでやっと……ね」

リオニは緊張が解けたのか……周りへの警戒が明らかに緩み、気力が戻ったのも分かった。

今でこそ少し回復したけれど、意識を失うほど衰弱していたのだ。

そんな極限状態で、探索痕のある方向を選び続けたリオニを、ミカドは……心底凄いと思った。

リオニが救われたような表情をするものだから、ミカドも釣られて嬉しいと感じた。

◇ 遠かったキナーク砦

そこからは、比較的順調だったと思う。

印を頼りに洞窟を進めば他の冒険者に何度も会った。

あまりの不潔さに、何度も顔をしかめられたけれど、水も食料も『魔猿の被害者』と分かれば快く分けてくれる。

少し回復していた疲労は、再度ピークを超えた……けれど今度は気力が充実している。

そうやって疲れを押して進む事3日……ミカドとリオニは、遂にキナーク砦への帰還に成功した。

「や……やった……帰れたぞ……」

「そうね……」

心配している仲間に、直ぐに報告したかった。

「……どうする?」

「そうね……」

「そうねしか言わないじゃん……」

仲間に無事を伝えたい、休みたい、汚れを落としたい。

欲求の優先順位は1番低いけれど、汚れを落とさなければ何もできないとリオニは言った。

「汚れを落として、寝て……それからみんなに報告しよ」

「だね、先に休まないとあいつらの相手なんか出来ないよな……」

安心したミカドは、急激に疲れを思い出していた。

こちらを見て指さしながら鼻をつまむキナーク砦の住人から逃げるように川に向かった。

意識を失う前に、リオニと急いで汚れを落とし、風呂屋は寝て死にそうだったので一度休んでからと……リオニから口酸っぱく忠告された。

そして、最低限の汚れを落としてリオニと別れ……結局、ミカドもリオニも丸2日ほど泥のように眠り続けたのだった……。

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